雷と激しい雨がやんだ。
窓の外を見ると、少し青空が見え始めている。
わたしはピアノのBGMを止めて、外に出るためジーンズに履き替えた。
ドイツ南部の小さな湖の畔にある、ワンルームのちっちゃな宿に泊まって、1週間の自分へのリトリート中。
今日は4日目。
数か月ぶりの一人旅だ・・・とはいえ、2月にはアマゾンに行ったのだったから、たった4か月ぶりか。
実のところ、旅人のわたしは、ひとつの場所に4か月間連続で滞在する、というのはとても稀で珍しい出来事なのだ。
自宅にはいつも必ず帰るけれど、でも、またすぐに旅立つ・・・という生活を、もう10年以上は続けているから、
今回のロックダウンで、4か月間もミュンヘンから離れられない(3件の旅の予定をキャンセルした)・・・という状況に、体が悲鳴をあげている。
今回の自分へのリトリートは、その療養である。
窓から、太陽の光が差し込んできたのを見て、私は、シャーマニックドラムとHAPIドラムを持って、湖畔へと向かった。
今日のサンセットとともに、自然への祝福を、ドラムと共に祈ろう。
HAPIドラムを両足にセッティングして、いざ奏でようとしたら、背後で物音がした。
振り返ると、男性が座っていた。
今日、彼と、偶然会うのは3回目だ。
一回目は、午後、私が猫と話をしているときに彼はやってきて、挨拶をして通り過ぎた。
そして、さらに、午後、雨が降り始める前に、私の部屋の窓の外を通り過ぎ、わたしと目が合った。
一目見ただけで、共鳴を感じた。
ご近所の人なのだろうな。
素敵な波動だなぁ、と思った。
ドイツ人に、素敵だなぁ、と思うことって、実は滅多にない。
あれ?でも、おかしいな。
今、私が座っているこの湖の畔のプライベートボート乗り場は、私が借りている部屋のオーナーしか入れないプライベートな場所なのに。
彼は、なぜ、ここに入ってきて、私の後ろに座っているのだろう?
まあ、いいか。
共鳴する波動の彼には、私の祈りを見せても大丈夫だろう。
HAPIドラムを奏でた。
即興だから、その時々で、音も響きも違うのが面白い。
暮れ行く西の空に向けて、そして、反映する東の空に向けて、楽器の響きとともに地球への祝福を伝えた。
美しい。
ああ、ただ、美しい。
突然、後ろからバババーー!と音がして、
鳥の群れが、背後から私の頭上を通り過ぎ、羽ばたきフォーメーションを組みながら水面に低空飛行していった。
鳥たちは、何の合図もなく、同時に同じ速度で、同じ方角に向き、同じ角度で曲がっていく。
なんて素晴らしいんだ、自然は・・・!
遠くに飛んで行く鳥たちを、慌てて一眼レフで撮った。
そう、一眼レフ。
5年ぶりに手に取った、この私のかわいい子。
昔は、どこにでも連れて行った、このカメラ。
この子を買ったのは15年位前だろうか。
カメラを手に歩いていることで、なんてことのない日常が、とても特別でワクワクするものになる、魔法のレンズ。
この5年間は、手にすることがなかった。
また、カメラの趣味を始めようという気持ちになったこと・・・、自分によかったね、と祝福する。
ちらり・・・と、背後に座ってる彼を見ると、目を閉じて、ヨガ瞑想ポジションをとっている。
ああ、やっぱり。
瞑想を実践している人は、やっぱり、見るだけで共鳴するんだ。
自然界と繋がっている人、独特の波動。
話したこともないし、もう会わないかもしれないけれど、彼との出会いと、この美しい地球の芸術を共有していることに嬉しくなった。
シャーマニックドラムを手に取った。
瞑想している彼には、騒々しくしてしまって申し訳ないけれど、でも、私が先にここに座っていたしね。
そして、ここはプライベートエリアで「私だけの場所だよ」と借りているお部屋のオーナーさんから言われていたのに、入ってきたのは彼だしね。
と、自分に言い訳している真正直なわたし。
スティックではなく、指と掌を使ってドラムをたたく。
そうすると、指の微妙な使い方で音のニュアンスが変わるから、叩いていて気持ちが入りやすく、とても好きだ。
シャーマニックドラムは、スピリットとの繋がりをアシストしてくれる。
わたしは、いくつかのリズムを繰り返し繰り返し、奏でた。
まるで、
心臓の音が、一定のリズムでビートを刻んでいるかのように、ドラムのリズムが、私という中心から周囲に波打っていく。
自然のスピリットとの交流。
至福の時。
本当に、美しい。
この素晴らしい地球の一部として、自然界の一員として、ここに命をもって存在することが、私は本当に光栄だと感じる。
太陽が沈み、夕焼けも消えかけたころになると、急激に寒くなった。
ドイツは、まだこの時期、上着無しでは少し寒いのだ。
ドラムを叩く手を止めたのは、セーター一枚だと寒くて、手がこわばってきたからだった。
振り返ると、彼はいつの間にかいなくなっていた。
気が付けば、わたしは、もう1時間半もここにいたらしい。
なんて素敵なサンセットの時間だったのだろう。
わたしは地球から愛され、地球を心から愛し、スピリットといつでも繋がっている。
地球は、なんて美しいのだろう。
この地球に生きるすべての命は、なんと、美しいのだろう。
ああ、美しいわたしの地球(おうち)。
黒くなっていく空に向かって、「また明日ね」とつぶやいた。
うっすらと、星が輝き始めていた。
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