2020年05月23日

(詩)もうすぐ 雨が降るだろう


「(詩)もうすぐ 雨が降るだろう」



空が突然 暗くなり

雲がみるみるうちに 厚くなっていき

麗らかに満ちていた 初夏の光たちが 

一瞬にして 閉ざされた

もうすぐ 雨が降るだろう



日よけの虹色パラソルが 大きくグラグラグラグラ揺れはじめ

まるで 今にも ふわりと浮いて 飛んでいきそうだ

One day I'll fly away.

彼女は パラソルの代わりに 歌った

さっきまで 我が物顔で飛んでいた たくさんの蜂たちも

どこかに 隠れてしまったようだ




風の性質が変わったのを 彼女の肌と髪が感知している

鼻腔に入る 空気の匂いが ガラリと変化した

ひんやりとした雰囲気が 空からゆっくりと降りてくる

もうすぐ 雨が降るだろう



ゴロゴロと遠くで 空が 唸っている

顔を上げて 彼女は 遠くをみつめ その音の出所を探している

大きく閃光が走り 大空を次なるアートへといざなう

一瞬の出来事すぎて あれは 幻だったのか現実だったのか

確かめたくて もう一度光ることを 期待してじっとみつめる

雨が ポツポツと降り始めてきた




窓を閉めようと 近寄ってみたが

嵐が近づいてくることに 

大地が喜び 木々が興奮し

空気が準備をしているのを感じると

胸と身体が 躍った

分離などせずに このまま 窓を開けたままにしておこう

気まぐれな雨粒が 窓際に立つ 彼女の頬や腕にも 小さく飛びこみ

彼女の肌を 少しずつ しっとり潤わせていく




木々が ゴウゴウと音を立て 大きくダイナミックに 

不規則を極めて 揺れているのを見ると

この雨が一緒に連れてきた この風の 奔放さと 豪快さに

潔くも 清々しい気持ちになる

いいぞ もっと吹け もっと揺らせ もっと大きく

木々たちよ 踊れ 踊れ 踊れ 




雨が屋根を打ち付けるリズムが 早くなってきた

この雨を この肌で 全身で 浴びているのだ・・・

という 妄想をしながら 窓の外をみつめていると

天から降りてくる水の 果てしのない祝福の歌として

深く 深く 彼女の奥まで響いていく




鼻から吸い込む空気から 

たっぷりと 水を感じる

そして 土と植物からの 

命の匂いを 受け取る

生きている 匂い

地球の 匂い

生命の証




大地から 天からの 命の祝福に

身体の細胞のすべてが 歓喜に震えている

強くなる 雨のビート

少し 寒くなってきた

掌で 腕をさする

上着を着ようか いや このまま肌で感じたい

地球と 共にいたい




彼女は ゆっくりと 大事な話を し始めた

そうそうは 言えないけれど とても大切な真実

言葉にならない 大切な想いを

声にして 話したくなった

雨の不規則なリズムが 

出てくる言葉の ひとつひとつの間に入り込み

バラバラな文字を 紡ぎ合わせていった




鳥が控えめに歌っているのが聞こえ 嵐が通り過ぎたことに気がづいた

ずいぶん たくさんの 真実の言葉が出てきたようだ

本当に 本当のことを話すときは いつも

わずかに ときに 大量に

罪悪感も生まれてくることを 改めて 実感していた

雨がやみ 彼女も口を閉じた

まだ強い風が 窓をガタガタときしませている

まるで 飛ばされないように ここにしがみついているかのようだ




窓の外の 木々のダンスに目を向ける

ハードロックから ワルツくらいになったか

去っていった嵐に 想いを向ける

今頃 どのあたりにいるのだろうか

どこから来て どこに向かっていったのだろう




静寂と 確かな強さだけが ここに残る

美しい鳥の歌声が この静かな空間を埋めていく

呼吸の感覚が やけに生々しく感じる

片手を胸に当て 中心から 深く息を吐いた

このティーカップが空になったら 散歩に出かけようか

嵐の去った 新しい大地に 

挨拶をしに 


もうすぐ雨が降るだろう.jpg



posted by ユキ ラクシュミナラヤニ at 23:28| 詩的なもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする