時計というのはね、人間ひとりひとりの胸の中にあるものを、
極めて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。
光を見るためには目があり、
音を聞くためには耳があるのと同じに、
人間には時間を感じ取るために心というものがある。
そして、もしその心が時間を感じ取らないようなときには、
その時間はないも同じだ。
ちょうど虹の七色が目の見えない人にはないも同じで、
鳥の声が耳の聞こえない人にはないも同じようにね。
でも悲しいことに、
心臓はちゃんと生きて鼓動しているのに、
何も感じ取れない心を持った人がいるのだ。
「モモ」ミヒャエル・エンデ著