『帰郷』
---バウ!元気だったか
イヌは僕の腹に飛び付いてきた
---まあ、ちょっと いろいろあってね
逞しい爪が 結構痛い
僕はさりげなくイヌの前足を持って、ストンと地面におろした
---なんだ、シケタつらして
また会社の人間関係か
イヌは座って、舌を出して ハッハッ と僕を見上げた
---まあね、人間っていうのはいろいろあるんだよ
いいなあ お前は悩みがなくて
僕はイヌの隣に座り、膝を抱えて雲を見上げた
首のどこかの骨が ポキ と鳴った
---生きているって幸せだぜ だって死んでないんだから!
イヌは フン と鼻をならし 右前足の爪を ガジガジ噛んで
その足で 目のあたりをゴシゴシした
---そうだね〜 お前みたいになにもしなくていいなら幸せだよなー
僕は 横目でイヌを見て ため息をついた
---はは ばかだなあ
鎖で繋がれていても 自由でいられるんだよ
お前は繋がれていなくっても
なんだかいつも 不自由だよなあ
イヌは腹這いになり
強烈な匂いの 大きなあくびをひとつしたあと
大きな顎を 揃えた前足の上にのせた
-----繋がれていなくても 不自由・・・・か
僕は 目を閉じているイヌの顔をじっと見ていた
つやつやのイヌの鼻が ヒクヒク としている
大きく垂れた耳が ピクンと動いて 僕の様子を伺っているのだ
風が そよ と 通りすぎた
たんぽぽの綿毛が イヌと僕のあいだに ふわりと落ちた
夕焼けが イヌと僕の 長い影を作っている