2012年07月07日

風と戯れ



鼻から息を吸い込む。

湿気を含んだ空気が、眉間のあたりに流れ込む。

見上げると曇り空。

まもなく、雨が降る兆し。

降る前の、この「雨の匂い」。



「雨の匂いってあるよね? でも、ユキ以外の人に言っても、こういうかんじ、わかってもらえないんだよね」

むかし、むかし、まだわたしがライオンの子供だったころ、

そう言って、同じ感性を共有した一人の少女がいた。

少女はまるで、真っ白なウサギのような子だった。

この「雨の匂い」を感じるたびに、いつもその白ウサギ少女を思い出す。



水を含んだ風がわたしにからみつく。

顔に、長い髪に、両脚に、まるで遊び盛りのベイビーのように、絡んでくる。

私は両腕を、大きく広げて受けとめる。

湿気があり、どっしりと重たく、それでいて柔らかい風。

私の顔を洗う。

髪をなびかせる。

心の底にある記憶を、サワサワと揺らしていく。



コン、コン、カカン・・・・

小さな用水路のあたりで、なにやら音がする。

コン・・・、コン・・・・・

水が滞っているところに、コーヒーの空き缶が浮かんでいる。

その缶が、用水路の石の壁に当たっているようだ。

コン・・・・・、コンコン・・・・・・

流れる水と、なびく風と、空き缶が会話をしているよう。

そこに、わたしも混ぜてもらおうか。

よいしょ、としゃがみこむ。

さあ、聞いてあげるから、話していいよ。

「こうして水と風に揺られて、ボク船酔いなんだよ」

あらま、お気の毒に。



風が吹く。

頬をすべる。

わたしのリンゴのほっぺを、両手で包みこんで愛を伝えていく。

「大好きだよ」

やさしく髪を、撫でてイイコイイコ、してくれる。

「いつもここにいるよ」

わたしは両腕をめいっぱい広げてみる。

待ってました!・・・・と、駆け寄って抱きついてくる。

「一緒に居たいよ」

両腕に、体に、絡みついて甘えてくる。

風が、わたしをたくさん、愛してくれる。



空を見上げる。

暗い雲。

もうすぐ、雨になりそうだ。

わたしは「雨の香り」を、感じる。

ライオンの子供と、白ウサギと、

愛にあふれた地球と一緒に。


ゆうゆう1



posted by ユキ ラクシュミナラヤニ at 06:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩的なもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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