2011年04月20日



「プシュゥーーー!!」

電車がホームに緩やかに到着し、ドアが左右に開いた。

数人の人が出て行き、数人が乗車したようだ。

膝の上に乗せた大きなバッグの、その上に広げた教科書で勉強をしながら、視界に入る人の流れを感じる。

神奈川県と東京都の境くらいのこの場所では、新宿のような殺人的な人混みがないので安心する。

わたしはいつも、電車の一番前の車両か、一番後ろの車両を選んで乗ることにしている。

人混みが、大嫌いなのだ。 端っこならば、少しだけ平和に乗車できる。



発車の音楽がなり、ドアが閉まる瞬間に、「バタバタバタ・・・・・!」と空気をかき混ぜるような騒がしい音がして、はっと顔を上げた。

ハトだった。

バタバタと、羽をはばたかせ、車内を一周ぐるりとまわる。 乗客たちにごあいさつ。

乗客はみな、顔を上げ、この珍客を目で追っていた。 

わたしとハトさんが乗車したのは進行方向一番前の車両。 運転席が見えるガラスについている銀色の手すりポールのところに、ハトさんはチョコン、と着座した。

ガラスに邪魔されて、体が斜めになりながら、グラグラしながら、なんとかしがみついているようだった。

ツルツルの銀色ポールは、ハトさんの小さな手には滑りやすく、わたしは「落ちないかしら」、とハラハラしながら見守っていた。

車両の中にいるみんなが、ハトさんをじっ・・・・と見守っていた。

ハトさんは、キョトン、とした顔をして、おとなしく前進する電車の風景を楽しんでいたようだった。



どこに行きたいのかな。 

どこの駅で降りるつもりなのかしら。 

きっと、いつも上空から電車を眺めていて、一度、この四角く長い乗り物に乗車してみたかったんだろうな。 

ハトさん、いらっしゃいませ。 

乗り心地はいかがですか?

自由に大空をはばたくあなたには、この小さな箱の中にじっとしているのは、とっても窮屈でしょう?



次の駅のホームに近づき、電車がゆるやかに減速していった。

ドア付近に立っていた男性が、ドアが開くと、ハトさんを手でドアの外に促した。

バタバタバタバタッ・・・・・・・!!

羽ばたきの音の余韻を残して、ハトさんは勢いよく外に飛び立っていった。

ホームの向こう、電線の隙間、空の奥へ奥へ・・・・・あっというまに姿が見えなくなってしまった。

自分の本来の生活へと戻っていったのだろう。 

ああ、わたしをおいて、行ってしまった。 

もう少し一緒にいたかった。

「鳥」はいつもわたしの直観をくすぐる。 わたしの人生で、いつでも「カギ」となる存在だ。

わたしの日常に、ヒョイ、と現れた気まぐれなハトさん。 

わたしに、なにを伝えてくれたのかしら。

海鳥


posted by ユキ ラクシュミナラヤニ at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩的なもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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